今週の急落はパラジウム相場の終わりの始まりか

今週になって先物市場でパラジウムが急落しており、先週終値の2,650ドルから20日夜時点で2,300ドルと10％を超える下げ幅になっている。ガソリン車の触媒として過去数年高騰してきたパラジウムだが、世界がEVシフトを進めているため上げ相場もだんだん終わりに近づいているのではないかと見られてきた。

EVシフトで先細りか

　今週は株式市場が軟調だったが、先物市場でも原油などが下落。そして金属銘柄の1つであるパラジウムも下げが続き、先週終値の1オンス（≒31g）＝2,650ドルから20日夜には2,300ドルと10％を超えるほど大きく値を崩した。

　そもそもパラジウムは最近5年ほどかつてないほどの上昇を見せてきた。きっかけは2015年に起こったフォルクスワーゲン（VW）の排ガス不正問題。パラジウムはガソリン車の排ガス浄化用触媒として利用され、ディーゼル車にはプラチナ（白金）が利用されている。

　VWの排ガス不正問題とは、VWが自社のディーゼル車で排ガステストを行うにあたり、排ガスの量を不正に低くするソフトウェアを使用していた問題。この事件によってディーゼル車への信頼が大きく下落し、その後はガソリン車へのシフトが進んだと言われる。

　結果として触媒としてのプラチナの需要が大きく下がり、パラジウムは激増した。そのため2016年春には500ドル台だったパラジウム価格はその後数年間急激に上昇。2020年2～3月の株価大暴落時はパラジウムも2,800ドルから1,400ドルまで短期間で半分になったが、4月以降はまた上昇し2021年5月には3,000ドルを超えた。

　しかし5月以降は穀物や資材など、昨年秋以降上昇してきた先物価格が下落に転じ、パラジウムも同様に上昇が止まった。この下落はいくつかの理由が考えられるが、1つの大きな要因に昨年以降各国が本格的にガソリン車からEV（電気自動車）へのシフトを打ち出したことにあると見られる。

　EVはガソリン車やディーゼル車と違って排ガスを出さず、当然ながら触媒も必要としない。したがってEVが世界で広まればパラジウムの触媒需要も低下していく。将来のEVシフトが確実となった今、パラジウムの需要は先細るとの見通しが高まりそれがパラジウム売りにつながっている。

　また最近では技術の進歩によって、ガソリン車でも一部にパラジウムではなくプラチナを触媒として使える車が出てきている。それもまたパラジウム価格の下落を引き起こした要因と見られる。

　しかし世界のEVシフトには長い時間がかかることから、すぐにパラジウム需要が急減するとは見られていない。自動車業界はこれから長い時間をかけてガソリン車からEVに移行し、パラジウムの需要も低下していくだろう。したがって短期的に暴落するとは限らないが、長期的に見ると過去5年のような上昇を期待するのは難しいのかもしれない。