難民危機が深刻になっていく欧州

今年になって中東などから欧州を目指す難民の数が激増し、EU全体の深刻な問題となっている。最近EUの首脳が何度も難民問題について会議を行ったが、他国に責任をなすりつけるばかりで有効な対策を打ち出せないのが現状だ。

難民問題が危機的状況に

長引くシリアの内戦、そしてIS（イスラム国）の台頭による生活基盤の破壊のため、中東から欧州を目指す難民の数が今年になって激増している。例えばドイツは、去年1年間で難民申請する人の数は20万人ほどだったが、今年は80万人と4倍に増えるという予想も出ている。

これはすでに「難民問題」という生易しい状況ではない。日本のマスコミはまだあまり使っていないが、海外メディアでは「難民危機（refugee crisis）」という言葉をよく使っている。状況はすでに危機的なレベルになっている。

EUの中でも特に難民問題が深刻なのが、まず欧州の南にあり船や陸路で難民が到着しやすいイタリアやギリシャ。そしてEU随一の経済大国であり、これまで比較的難民を多く受け入れてきたドイツだ。

ギリシャやイタリアに上陸した難民も、そこに留まるよりも「ドイツを目指したい」と言っている者が多い。しかしそういった難民の数が多いことから、ドイツにとって非常に大きな負担になっている。

難民というのは紛争地などから逃げてきた人なので、シリアやアフガニスタンから来た人達が該当する。しかし紛争がないため難民に該当せず、かつEUの自由に移住できる範囲に入っていない旧ユーゴ諸国、アルバニア、セルビア、コソボなどからも、最近「ドサクサ紛れ」でドイツに行って住んでしまおうという人が増えている。これらの国々は貧しいので、チャンスがあればドイツなど豊かな西欧の国に移住したがる人はいくらでもいる。

問題はドイツの中でも、難民に対する反発が急激に高まっていることだ。今年になってから、難民収容施設への放火など、難民に反対する暴力事件が急増している。メルケル首相を初め政治家はそういった勢力を批判しているが、今後難民が増えればますます反発は高まる。最近ではメルケル首相が暴力行為を批判する声明を出したが、そのわずか数時間後にはまた別の放火事件が起こった。

この問題は、早急に対策をしないと今後長期的に社会不安が高まる原因となる。シリアの内戦も、2011年に始まったが最初はそこまで酷い状況ではなかった。だが4年経った現在、状況はさらに悪化して難民が激増している。

欧州の難民問題も、今年はなんとかしのいでも、対策を打たないと数年後に大変な事態になるかもしれない。なんといっても問題が深刻化している国の1つが、ユーロ圏の経済的中心であるドイツなのだ。ドイツが社会的・政治的に不安定になったら、それはギリシャの救済やユーロ圏の統合など、欧州のあらゆる枠組みが崩壊していく材料になりかねない。