20日未明にクレディ・スイスがUBSによって買収され、これで欧州の金融不安は落ち着くかに思われたが、市場の動揺は収まっていない。その理由の1つに、買収に伴いクレディ・スイスがこれまで発行したAT1債を無価値にしたことがあると見られている。
先々週にアメリカで始まった金融不安は、先週になるとスイスの銀行大手・クレディ・スイスの株価暴落という形で欧州にも拡大した。
アメリカで始まった金融不安が欧州にも拡大することを懸念し、スイスの政府や銀行業界は迅速に動いた。スイス政府がクレディ・スイスの国有化を検討しただけではなく、同じスイス銀行大手のUBSがクレディ・スイスの買収を提案した。
当初の買収案はクレディ・スイス1株あたり0.25フラン(に相当するUBS株)の金額だったが、クレディ・スイスは安すぎるとしてこの案は拒否。しかしその後0.76フランに引き上げたため、日本時間の20日未明には買収が成立した。
これで金融不安が多少は解消されるかに見えたのだが、クレディ・スイスがこれまで発行してきた160億フラン(約2兆2700億円)にも及ぶAT1債を無価値にすると発表したことが、金融市場にまた新たな問題を引き起こしている。
ではこのAT1債とはどういう債券なのか?AT1とは「Additional Tier 1」の略で、日本語に直すと「その他ティア1債」という意味になる。「Tier」は「層」という意味なので、これは簡単に言うなら債券の分類の1つとなる。
AT1債とは、CoCo債あるいは偶発転換社債と言われる債券とほぼ同じ意味を持つ。漢字で書かれて比較的理解しやすい偶発転換社債とは、特殊な条件で発動される転換社債のこと。転換社債とは、発行後に株式などに転換できる社債。
偶発転換社債は海外の銀行などが多く発行している。「自己資本比率が一定以下になった場合」などの条件を満たすと、強制的に株式に転換させられたり、元本を削減されるタイプの債券だ。
また偶発転換は英語で「Contingent Convertible」と書くので、それぞれの最初の2文字を取って「CoCo」債と呼ばれるようになった。
そしてクレディ・スイスがこれまで発行していた160億フランのAT1債が、買収と同時に無価値にされると発表された。一方で株式のホルダーは、1株0.76フラン分とはいえ価値が残ることになる。この点について、クレディ・スイスのAT1債を買っていた投資家が憤っていると言われる。
クレディ・スイスの措置のために他の銀行が発行していたAT1債に不信が広がり、20日になって欧州やアジアの銀行が発行しているAT1債に売りが殺到している。
日本の金融機関がAT1債に投資をしていたら今回の件で損失になるし、またAT1債を発行している金融機関があるとその信用が揺らぐ。そのような可能性があるため事態を重く見た金融庁は、20日に「AT1債問題の日本国内の金融機関への影響は限定的」との発表を行っている。
クレディ・スイスの買収で多少は落ち着いたかに見えた金融不安だが、AT1債問題を発端として債券の信用が落ちると、新たな問題になりかねない。
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