盗まれた大量のビットコインが返ってきた話

2016年にBitfinexという海外仮想通貨取引所からビットコイン約12万枚がハッキングされて盗まれる事件があった。盗まれたビットコインはなかなか取り返せなかったのだが、最近になって70～80％が回収できるという驚きの展開があった。しかも事件当時に比べてビットコインの価値は約100倍にまで高騰している。

5年以上を経て奪還

　仮想通貨にとってハッキングによる盗難のリスクは常に付きまとう。日本も第1次仮想通貨ブームの最中だった2018年1月に、取引所のコインチェックから約600億円分ものネム（XEM）がハッキングで流出して大さわぎになった。

　しかしこの事件をきっかけに日本では仮想通貨取引所のセキュリティ基準が厳格化されたことで、その後2022年2月現在まで約4年間において大きなハッキング事件は2～3件程度に留まった。また被害額もだんだんと減ってきている。

　問題は仮想通貨が一度盗難されると取り返すことがかなり難しい点だ。コインチェックから流出したネムも、その後4年以上手掛かりはつかめていない。

　そのような現状の中、5年以上前にハッキングで盗難された大量のビットコインのうち、70～80％が回収できるという珍しい例が最近あった。

　この事件で2016年8月にビットコイン約12万枚をハッキングされて盗まれたのは、Bitfinex（ビットフィネックス）という海外の仮想通貨取引所。当時は仮想通貨ブーム前でまだビットコインは今では想像もできないほど安く、1枚が日本円で6万円程度だった。つまり当時のレートで被害額は約72億円になる。

　この事件後Bitfinexの顧客は被害を受けた資産の約36％を強制的にカットされるなど、顧客にも多大な影響が出た。

　その後Bitfinexは盗まれたビットコインを取り返すためにいろいろ手を尽くした。2020年8月には盗難されたビットコイン回収に成功したら、「協力者に被害の5％、犯人にも25％を報酬として与える」と発表した。当時のレートは1枚＝120万円だったので、合計30％の3万6000枚は約430億円にもなる。

　この報酬提示後もしばらくは解決が見られなかったのだが、今年2月になって大きな進展があった。2016年に盗まれたビットコインのマネーロンダリングを行っていたという夫婦が、アメリカのNYで逮捕されたのだ。

　この夫婦は夫がイリヤ・リヒテンシュタイン、妻がヘザー・モーガンという名前の、どちらも30代の夫婦。これまで仮想通貨関連の仕事をやっていた。

　夫婦が逮捕されるとほぼ同時に、米当局は盗まれたビットコインの70～80％にあたる約36億ドル（約4,140億円）分を押収した。現時点でビットコインのレートは約500万円と事件当時の約100倍にも高騰しており、押収した金額は法定通貨に換算すると盗まれた当時より遥かに巨大な金額となっていた。

　このように回収できたのは稀な例で、多くの場合ハッキングされて盗まれた仮想通貨は返ってこない。仮想通貨取引所にとってセキュリティ対策が極めて重要であることを改めて示す事件だった。