円キャリートレードはいつか解消される

2022年以降の急激な円安を引き起こした要因の1つに、世界の金融機関による円キャリートレードの増加があると言われている。しかし円キャリートレードによる円売りは片道で終わらずいつかは解消される可能性が高く、そうなると急激な円高が進行することになる。

2000年代にも円キャリー

　2022年以降は戦後稀に見る超円安時代に突入した。もちろん名目上の為替レートなら現在より円安だった時代はあり、1950年頃から1970年頃までは1ドル＝360円の固定レートだった。

　しかし両国の物価水準などを加味した実質実効為替レートで見ると、今年の1ドル＝160円は1970年以前の360円時点とほぼ同じかさらに円安とすら言える。

　ここまで円安が進行した大きな要因の1つとして、円キャリートレードがあるとよく言われるようになった。円キャリートレードとは金融機関などが金利の低い円で資金を調達して、それを他の通貨に替えて運用して利益を出す取引。この過程で円売りが発生して円安になる。

　長期化する円安によって2022年以降は円キャリートレードのポジションが積み上がり、現在世界では約500兆円もの円キャリーポジションがあると推定されている。

　円キャリートレードとは円売りの片道取引で終わるものではなく、将来的にポジションが解消されれば逆に円買いが行われる往復取引でもある。つまり現在約500兆円あると言われる円キャリーポジションが解消に向かえば、急激な円高になる可能性が高い。

　円キャリートレードが活発に行われたのは今回が初めてではない。2004～07年頃にも、日本だけがほぼゼロ金利で他国は高金利という似た状況の下、円キャリーが多く行われた。そしてこの時期は対米ドルでは1ドル＝124円が円最安値だったが、対ユーロでは1ユーロ＝170円近くまで、対ポンドでは1ポンド＝240円近くまで円安になった。

　ではこの時は何がきっかけで円キャリートレードが解消に向かったのか？それは2007年夏のサブプライム問題表面化が始まりとなった。アメリカでは2000年代になって、低所得者層向けの住宅ローン・サブプライムローンが広まった。

　しかしもともと住宅ローンを組めない層向けのローンだったため、地価が上昇している間は良いが、2006年頃から地価が下げに転じると支払えない家計が続出した。そしてサブプライムローンは他の証券にされ世界各国の金融機関に販売されていたため、その問題が表面化したのが2007年夏だった。

　問題表面化で金融市場の地合は悪化し、株価が下がるとともに円キャリーも解消に向かった。そのためこの頃をピークに、為替は円安から円高トレンドへと転換した。

　さらに2008年秋にはサブプライム問題を遠因にリーマン・ブラザーズが破綻しリーマン・ショックが起こり、世界中の株式市場が大暴落して円キャリーポジションも大規模に解消された。そのためこの時期に急激な円高になり、2009～12年の民主党政権の超円高時代に突入したのだ。

　今回は再度円キャリートレードが多く行われているが、なんらかのきっかけがあればリスク回避ムードが広がりこれらが解消に向かうことが起こりうる。そうなると為替は一気に円高に動くだろう。それはいつ起こるか誰にもわからず1年後、5年後、あるいは10年後かもしれない。しかしいつかは起こる可能性が高い。