ロシアからの供給懸念で暴騰する欧州天然ガス

ロシア産天然ガスをドイツに供給するパイプラインが、11日から定期点検に入った。しかしこの定期点検が終わっても稼働が再開されない可能性が懸念されており、欧州の天然ガス価格が暴騰している。

ロシアとの対立により暴騰

　天然ガスはアメリカ、欧州、日本でそれぞれ別の銘柄があり、それぞれ先物取引が存在している。そしてそれぞれの銘柄で値動きがかなり違う。

　そのあたりが原油先物とは違う。原油先物はNY市場のWTI原油、ロンドン市場のブレント原油、さらに東京先物市場の東京原油がある。しかしこれらの値動きはあまりかい離せず、為替レートの影響で多少違う動きになる程度だ。

　それに対して天然ガスは各地域の銘柄の値動きが別物だ。記事中でよく出るNY市場の天然ガスは、6月に100万BTU＝9.6ドルの天井をつけた後1ヶ月ほど暴落が続き、今月上旬には一時5.3ドル台をつけた。

　しかし欧州の天然ガス銘柄は全くの別物で6月以降暴騰している。欧州天然ガス価格の基準とされるのは、ダッチTTF天然ガスという銘柄。この天然ガス先物は取引単位が「ユーロ/MWh（1時間あたりメガワット）」になる。

　欧州天然ガスは2010年代は10～25ユーロで安定して推移していた。そして2020年春のパンデミック開始に伴う先物暴落で、一時は5ユーロまで下落した。

　だが他の先物銘柄と同様、2020年夏以降は上昇が始まる。特に2021年春頃から上昇が加速し、2010年代はレジスタンスラインだった25ユーロを超えてさらに上昇。2021年当時ウクライナ紛争はまだ始まっていなかったが、冬になるとロシアと欧州との間にすでに緊張が高まっていたことや、厳しい寒さのため欧州天然ガスは180ユーロの最高値まで暴騰した。

　2021年暮れの暴騰は短期間で終わり、22年初頭は75～95ユーロで一旦落ち着いた。しかし2月下旬のウクライナ紛争開始を受け2月下旬から3月上旬にかけて再度暴騰し、今度は前年暮れを超える230ユーロをつけた。

　この時の暴騰も短期的なもので終わり、その後は100ユーロ付近に数ヶ月間留まり、6月には80ユーロまで下がった。

　だが6月後半からまた急上昇が続いており、7月7日にはここ1年で3度目となる180ユーロをつけた。今週11日からはロシアからドイツに天然ガスを供給するためのパイプライン「ノルドストリーム」が定期点検に入ったが、10日間の点検期間を終えても再開されないのではないかという懸念が高まっている。

　そのため欧州ではまた天然ガス供給に対する不安が高まり、それが欧州天然ガス高につながっている。実際に再開されるのかされないのかまだ不透明だが、再開されなければロシア産天然ガスの欧州への供給が止まり欧州経済に多大な影響が出る。

　インフレなどから景気後退懸念が高まっている欧州だが、天然ガス問題は景気をさらに不安定にさせる要因となりうる。