ビットコイン法定通貨化から1年経ったエルサルバドル

エルサルバドルは世界で初めてビットコインを法定通貨として採用したため、世界の仮想通貨業界に注目されていた。しかし去年9月7日の法定通貨化から先週で1年が経過したが、現実は当初思い描いていたバラ色の未来からは程遠いようだ。

レート暴落、シティ構想もとん挫

　2021年は2017年に続く2回目の世界的な仮想通貨ブームだった。仮想通貨価格は高騰し、個人だけではなく多くの企業が仮想通貨に飛びついた。仮想通貨に投資をした企業も多いが、仮想通貨をサービスに取り入れた企業も無数にあった。

　そして国家として仮想通貨に飛びついたのが、中米の小国・エルサルバドルだった。もともとエルサルバドルは自国の通貨が不安定だったために、2001年にすでに独自通貨を廃止して米ドルを法定通貨としていた。

　そのような状況で2021年の仮想通貨ブームになったため、エルサルバドルは米ドルに加えてビットコインを法定通貨にしてしまうという奇策を発表。エルサルバドルは世界で初めて仮想通貨を法定通貨にした国家になった。

　法定通貨化の準備のために全国各地にビットコインのATMが設置され、「Chivo」という独自のビットコインウォレットアプリも配布された。そして昨年9月7日にはいよいよ法定通貨化が始まったが、当時は一部の人々が抗議も行った。

　その数ヶ月後には「ビットコイン・シティ」構想を立ち上げた。これはビットコインを中心とした都市の構想で、仮想通貨の売却益にかかる税金をゼロにして世界から投資家を集めて繁栄させるというもの。つまり仮想通貨のタックス・ヘイブン都市として建設する予定だった。

　そして先週で法定通貨化から1年が経ったが、現実はブケレ大統領が思い描いていたようなバラ色の未来からは程遠い。

　まずビットコインのレート自体が法定通貨化当時から暴落した。昨年の9月7日当時ビットコインは550万円付近だったが、現在はすでに300万円前後と半分近くまで暴落した。しかし日本円でのレートは円安が進行したために下がり方がやや緩やかになっている。米ドル建てだと昨年9月時点では5万ドルだったのに、現在では2万ドル強と半分未満になった。

　ちなみに法定通貨化された去年9月7日にビットコインは15％も暴落したのだが、これはエルサルバドルでビットコイン関連システムに障害が起こったことが原因の1つなのではないかと見られている。

　レートが半分未満になっているため、法定通貨化されてビットコインを買った人々は大損をしている。それだけではなく「ビットコイン・シティ」は構想を発表しただけでその後全く建設は進んでいない。

　肝心のビットコインの普及だが、こちらも国民の間であまり普及は進んでおらず、相変わらず米ドルが主な通貨として使われている。米ドルはビットコインとは逆に今年になってかなり強くなっているので、去年から今年にかけて資産を米ドルで持っていた方が正解だった。そしてウォレットアプリ「Chivo」も普及が進んでいない。

　今年4月に中央アフリカもビットコインを法定通貨化した。しかしエルサルバドルで特に法定通貨化の恩恵がなかったように、中央アフリカも今のところ大きな恩恵はない。やはり仮想通貨を法定通貨にするという政策には無理があったのだろうか。