いよいよ日銀が利回り上限の防衛へ

日本の長期金利が上昇しているため、日銀は14日に国債を無制限に買う「指値オペ」を行うと発表した。現在0.25％に設定されている国債利回りの上限ラインを守るためだが、今後ずっと守り切れるとは限らない。

スイス中銀による防衛失敗も

　最初に簡単に説明しておくと、長期金利とは10年物国債の利回りのこと。国債には株式市場と同様リアルタイムに売買される国債市場がある。そして国債市場における国債の価格と利回りは反対に動く性質がある。

　国債が買われて価格が上がると利回りは下がり、逆に売られて価格が下がると利回りは上がる。2年物、5年物など複数ある国債の中でも10年物国債の利回りが長期金利と言われる。

　そして昨年末から年明けにかけ、国内外で長期金利が上昇している。背景にあるのはアメリカやイギリスなど多くの国が緩和を縮小し引き締めに向かっていること。米英など引き締めに向かっている国の長期金利が上がるのは当然だが、引き締めを行う見通しのない　日本の長期金利もつられて上がっている。

　本来長期金利の動きは市場の原理に任せるものだ。しかし日本は2016年9月に長期金利や短期金利を一定のレンジ内に誘導する政策を発表し、当時の長期金利目標レンジは0％から±0.1％に設定された。

　その後レンジは2018年7月に±0.2％に拡大され、2021年3月には±0.25％に拡大された。だが2022年明け以降の長期金利上昇で0.25％の上限がブレークされようとしている。2月10日にはすでに0.23％を超えた。

　この上昇を受けて日銀は10日に、0.25％以上の利回りで売りに出される国債を全て買い取る「指値オペ」を14日に実施すると発表した。11日は休場なので、翌営業日にすぐ実施することになる。

　「指値オペ」とは一定の価格以下の国債売り注文を全て買い取るという意味で、これによって国債価格のさらなる下落、そして0.25％を超える利回り上昇を防ぐ狙いがある。

　いわば日銀は0.25％の上限ライン防衛に動くことになる。「指値オペ」政策によって当面は0.25％を超えて長期金利が上がることはないだろう。ただしそれがずっと続けられる保証はない。

　中銀が万能ではないことを示した例に、スイス中銀によるフラン防衛がある。2008年のリーマン・ショック後スイスフランは高騰が止まらず、フラン高によってスイスの輸出業は打撃を受けていた。

　そこでスイス中銀は、2011年9月にユーロ/フランの防衛ラインとして「1.2」を設定。このラインを超えてフラン高にならないように、フランを無限に刷って売る政策を発表した。

　これは理屈で言えば破綻することはないように思われる。スイス中銀はフランを刷ることができるので、いくらでも発行して売ればいい。ところが2015年1月15日になって突如「フランの1.2上限を撤廃する」と発表。フラン防衛政策は破綻した。

　それまで絶対防衛ラインと思われていた上限が突然撤廃されたため、直後にフランが暴騰。フラン売りをしていた為替トレーダーの多くは破産した。スイスフラン/円も撤廃発表前には1フラン＝115円だったレートが、発表後一気に40円以上も暴騰して160円になった。

　このように中銀が防衛ラインを設定しても永遠に守り切れるものではない。日本の長期金利の0.25％も、しばらくの間は良くてもいずれ日銀は守り切れなくなることもありえる。