南米でも難民問題が発生しかけている

欧州では2015年夏以来難民問題が深刻になっているが、最近になって南米でも難民問題が発生しそうな気配になってきた。それは経済危機が続くベネズエラから、人々が隣国のブラジルやコロンビアに逃げ出そうとするようになってきたからだ。

ベネズエラの過去記事はこちら。

隣国へ経済的難民として渡る

欧州では2015年夏以来難民問題が深刻化。中東や北アフリカなどから大挙して欧州を目指し、ドイツは2015年だけでも100万人近くを受け入れた。しかし短期間にあまりに大量に難民を受け入れたために、受け入れを担当する自治体などから反発が強まる。またやってきた難民のほとんどがキリスト教が中心の欧州とは文化の全く違うムスリムだったため、文化的な摩擦も増えて行った。

欧州は難民の流れを止めるために、それまで難民の主な通り道になっていた「バルカンルート」の国境を閉鎖。さらに昨年春にはトルコと協定を結び、トルコからギリシャに上陸した難民をトルコに送還することで合意した。この協定実施後、バルカンルート経由の難民の流れは一応止まる。

ただ難民問題は終わったわけではなく、その後は地中海経由でイタリアに上陸する難民が少しずつ増え始めている。

そして遠く離れた南米でも、難民問題が深刻化するのではないかという懸念が強まっている。その原因は、原油安 [i] によって経済危機が続いているベネズエラにある。

ベネズエラは年率1000％を超えると言われるインフレに悩まされており、市民は食料品などを手に入れるのにも苦労する日々が続いている。そして状況は毎月悪化している。

地理的に見ると、ベネズエラは北東には大西洋があり、人々がその方向から他国に行くのは難しい。だが西側にはコロンビアがあり、南には大国のブラジルがある。経済的に困窮したベネズエラの人々が、去年あたりから少しずつコロンビアやブラジルに逃げていると言われている。

もともとベネズエラ人は、コロンビアやブラジルにはビザなしで入国できる。だから国境を超えて物資を買いに行くことは、以前から珍しいことではなかった。しかし当然ながらビザなしでは滞在できる日数が限られており、就労もできない。

ところが経済的に苦しくなったベネズエラ人が、コロンビアやブラジルに入り、そのまま不法就労したりするケースが増えているという。これが両国のベネズエラ国境付近の地域で大きな問題になりつつある。

ただブラジルは地理的にも巨大な国で、サンパウロやリオデジャネイロと行った中心的な都市は南東の大西洋沿岸にある。それに対してベネズエラは北西方面にあり、またそれらの間には巨大なアマゾン大森林が広がっている。ベネズエラから来た人々がリオなどに到達するのは、交通機関を使えるお金を持っていない限り非常に難しい。その意味では、ブラジル全体が難民問題で揺れることになる可能性は低い。

ただベネズエラの状況は全く改善する気配がないので、このまま何年も経済危機が続くと難民問題も少しずつ深刻化してくることが考えられる。