テスラ株への影響が懸念される報酬パッケージ

昨年以降苦戦が続くテスラは、最近になって全世界で1万4000人の人員削減を発表した。そして今週17日には、6月に開催される株主総会でイーロン・マスクCEOへの巨額報酬パッケージへの承認を株主に求めた。このパッケージは今後の株価に影響する懸念が残る。

1月に裁判所で無効判断

　2020～21年頃に株価が暴騰してイーロン・マスクCEOが世界一の富豪になり話題になった米EVメーカーのテスラ（銘柄コード：TSLA）だが、昨年から苦しい経営になりつつある。

　経営悪化の大きな原因は中国勢をはじめとする競合他社の台頭。2021年頃から世界各国がEVシフトを明確にしたことで、トヨタ自動車など大手メーカーも次々にEVに参入してきた。

　2023年は販売台数こそ伸びていたものの、それは何度も値下げをした結果であった。値下げのために販売台数増にも関わらず利益は伸びず、かつ今年になると販売台数も頭打ちになってきている。

　そのように苦戦が続くテスラだが、今週になって今後の株価に影響を与える可能性のある材料が出た。2018年に承認された後裁判所によって無効と判断されたイーロン・マスクCEOへの報酬パッケージを、6月13日の株主総会で再度承認するよう株主に呼び掛けたのだ。

　では裁判所が無効と判断するような報酬パッケージとは、一体どのようなものなのか？一言で言うと、テスラの株式を購入できる権利、つまりストックオプションになる。ただしその規模がかなり規格外で、かつ株価も2018年の発表時よりかなり高くなっている点が問題とされる。

　2018年に、イーロン・マスク氏に対して3億300万株（なお2018年以降テスラ株は2回分割をしているため、発表当時の株数は違っていた）を、1株あたり23.34ドルで購入できる権利としての報酬パッケージを付与すると発表した。なおこの報酬とは無条件で与えられるものではなく、テスラの業績が一定以上となったら与えられる条件であった。そして2018年に一度株主総会で承認された。

　2018年当時のテスラ株は23ドル前後で推移していたので、当時ならこの金額も妥当だったかもしれない。しかし2020～21年に株価が高騰すると、23.34ドルの購入価格は不当に安すぎると見られるようになった。

　そこで一部の株主が「この報酬は不当」と主張して、テスラが登録されているデラウェア州の裁判所に提訴。今年1月に原告の主張が認められ、裁判所は報酬パッケージを無効なものと判断した。

　この報酬パッケージで得られる金額は膨大で、ある試算では1月時点で560億ドル（現在のレートで約8兆6000億円、以下同じ）にもなる。なお他に1月時点で510億ドル（約7兆8500億円）という試算もある。ソースによって試算額が違うのは、1月はテスラ株が大きく変動したので違う日時点の株価を使ったためかもしれない。あるいはマスク氏の購入額である23.34ドルを引いた純利益額と、23.34ドルを引かない時価総額との違いかもしれない。

　どちらにしても4月18日時点までにテスラ株はまた下がっているので、現在の価値は1月時点より80～100億ドルほど低いと言われる。またこの報酬パッケージの株式が全て発行されれば、マスク氏の保有比率はそれまでの12％から25％に高まることになる。

　6月13日の株主総会で承認されれば、3億300万株の新株が発行されそれが売り圧力になることも考えられる。テスラ株のホルダーにとっては注目すべき案件と言える。