米財務省がミキシング業者に制裁をかける

仮想通貨の匿名性を高めるミキシングというサービスがある。今週8日に米財務省が、北朝鮮のグループによるマネーロンダリングに関わっていたとの理由で、ミキシング業者の1つに対し制裁措置を課した。仮想通貨ミキシング業者が制裁を受けるのは5月の別の業者に続いてこれが2回目となる。

複数のデータを混ぜて匿名に

　「ミキシング」という言葉にはいろいろな意味がある。「ミックス」が「混ぜる」という意味なので、いろいろなものを混ぜることをミキシングと呼ぶ。よく使われるのは音楽で複数の音源を混ぜて調整する意味でのミキシング。あるいは料理でも食材や調味料を複数混ぜることをミキシングと呼ぶ。

　そして仮想通貨にもミキシングがある。仮想通貨のミキシングとは、仮想通貨の送金データを複数混ぜて特定の仮想通貨の取引記録や送金元などがわかりにくいようにして、匿名性を高めること。

　仮想通貨は完全匿名ではなく、特定の通貨からその持ち主や取引の記録を辿ることができる。そうなるとプライベートな情報が他人に知られることになるので、それを嫌う人々がミキシングを使って自分の持つ仮想通貨の記録をわからないようにする。

　日本にはあまりないが、海外では数年前からミキシングを専門に行う業者が存在する。ミキシング自体は違法ではなく、自分の仮想通貨の記録を追跡不能にしたいホルダーによって利用されてきた。ミキシングを行う業者はミキサーと呼ばれることもあるし、あるいはブレンダーやタンブラーなどという言葉も使われる。

　しかしミキシング業者の1つである「Tornado Cash（トルネードキャッシュ）」に対し、今週8日に米財務省が制裁を課した。仮想通貨業者に制裁が課されるのは異例のことだが、理由は北朝鮮のグループによるマネーロンダリング（資金洗浄）に関わっていたためとのことだ。制裁によってアメリカ国内にある同社の資産は凍結され、また同社と取引をするためには米財務省の許可が要る。

　Tornado Cashがマネーロンダリングに関わっていた仮想通貨は、今年3月にAxie Infinityという仮想通貨が稼げるゲームに関連する業者からハッキングされて流出したもの。このハッキングでは日本円にして700億円以上の仮想通貨が流出したが、北朝鮮の犯罪グループが関わっていたと見られている。

　仮想通貨は新しい通貨の形態として、流通開始からわずか10年余りですでに世界の多くの個人や企業が利用するようになった。しかし仮想通貨は匿名性の高い世界であり、マネーロンダリングやテロ資金供与といった犯罪に使われる懸念はまだなくなっていない。

　仮想通貨の中でも匿名性の高いものは、犯罪に使われる懸念のため各国政府が取引を承認しないことが多い。そしてビットコインなど匿名性の低いものでも、今回のように匿名性を高めるミキシングサービスが問題視されることがある。米財務省がミキシング業者に制裁を課したのは今年5月に続いてこれが2回目となる。

　仮想通貨は世界を変える新しい概念だが、それを使ったマネーロンダリングなどの犯罪と各国当局との戦いはこれからも続くだろう。