暴動続く南アだがランドは比較的安定

南アフリカで前大統領のズマ氏に対して有罪判決が出たことをきっかけとして、今月9日以降全土で暴動や略奪が発生。日系企業も操業を停止する事態になっている。しかし国内が騒然としているにも関わらず、ランドのレートは比較的安定している。

数万人の軍隊も動員

　コロナ禍が世界中で猛威を振るっているが、南アフリカでは今月になって暴動・略奪によって国中が騒然としている。きっかけとなったのは、前大統領のズマ氏が有罪判決を受けたこと。

　ズマ氏は在職中の汚職疑惑に関し、法廷から呼び出され特別委員会で証言を求められていた。しかしズマ氏はそれを拒否したため、法定侮辱罪で禁固1年3ヶ月の判決を言い渡された。

　そして7月7日に収監されたことで、ズマ氏の支持者の多い南東部を中心に、収監に対して抗議デモが行われ始めた。当初は単なる抗議デモだったのだが、だんだんとズマ氏への抗議ではない単なる暴動や略奪目的の人々が街に出始めた。

　今月9日には暴動や略奪が始まり、その後最大都市のヨハネスブルグとその周辺や、他の南アフリカ各地の都市に拡大。暴動の規模があまりに大きいため、警察だけでは抑えきれずに予備役も含めた数万人規模を動員して軍を投じている。

　暴動・略奪は19日まで続いているが、これまでに死者が200人以上、逮捕者が2000人以上という惨憺たる事態になっている。また各国が南アフリカで行っている事業にも支障が出ており、トヨタ自動車は12日から東部ダーバンにある工場の操業を停止しているという。

　かなり大規模な暴動で南アフリカの社会・経済に甚大な被害をもたらすと見られているが、開始後も通貨・ランドのレートは比較的安定している。ランド/円は暴動開始前の7月8日には1ランド＝7.7円だったが、開始以降下げが続き14日には7.4円台になった。だがそこで一旦下げ止まり、19日現在で7.57円付近で推移している。

　しかしランドはもともと6月以降下げが続いており、7月9～14日の下げも必ずしも暴動・略奪のためとは言えない面がある。

　対米ドルでも同様の動きを見せ、7月8日時点で1ドル＝14.3ランド付近だったレートは暴動開始後の13日頃から米ドル高・ランド安となり一時は14.8ランドをつけた。だがその後は反転し、19日現在で14.5ランド付近に留まっている。

　今回の暴動の趣旨が当初のズマ大統領収監への抗議から単なる略奪目的に変わってきた感があるので、おそらく近い将来には沈静化するだろう。略奪は一通りの商店から奪い終わるとそれ以上奪うものがなくなり、長期間続かずに終わる。

　しかし今回の暴動・略奪による南アフリカ経済への影響は大きい。ドイツ銀行の推定では、暴動の影響で今年の南アフリカのGDP成長率は0.8ポイント下方修正される可能性があると述べた。今のところ日本を初め先進国経済にはそれほど影響がないことは救いと言える。