トーマス・クックが倒産し世界で約60万人が置き去り

イギリスの旅行大手・トーマス・クックが、23日になってロンドンの裁判所に破産を申請。1841年以来178年も続いてきた老舗の企業が倒産した。そして同社のツアーで世界各国に旅行している人々が現在でも60万人いると言われ、その人々が置き去りにされる事態になっている。

ネットの発達などから低迷

「トーマス・クック」という名前は、旅行が好きな人なら1度は聞いたことがあると思われる。同社はイギリスや他国から出発するツアー旅行を提供してきた他、旅行者用の決済手段・トラベラーズ・チェックの発行なども行ってきた。

しかし現在存在している企業は「トーマス・クック・グループ」という企業。同社が1841年以来200年近く続いてきたことはすでに述べたが、実は21世紀に入って2回、合併などによって名前が変わっている。

創業当初の企業は「トーマス・クック・アンド・サン」という名前だった。そのままつい最近まで100年以上旅行事業を続けてきたのだが、2001年にはドイツの企業によって買収され、社名が「トーマス・クックAG」に変更された。AGとは、ドイツにおける株式会社のこと。

その後は2007年になってイギリスの旅行会社「マイトラベル・グループ」と合併し、現在のトーマス・クック・グループ（銘柄コード：TCG）になった。

合併とは将来の事業発展を考えて行うものだが、その期待とは逆に合併後のトーマス・クックの事業は低迷する。低迷してきた理由の1つは、インターネットの発達によって既存の旅行代理店業務の必要性が低下してきたことだ。以前は代理店に旅行の手配を頼んでいた人々も、現在ではインターネットを使って自分で全てを手配することが増えた。

またマイトラベル社との合併も失敗だったと言われる。マイトラベル社の事業は低迷し、トーマス・クックはそのために減損損失を計上せざるを得なくなっていった。

そして去年から今年にかけて同社にとってトドメになったのが、英のEU離脱問題だ。離脱問題のためにイギリスから、またはイギリスへの旅行を控える人が増え、それが最終的にトーマス・クックに破産を決断させた。

だがこの倒産によって、トーマス・クックや関連会社のツアーで世界に散らばっている約60万人が、帰国の飛行機などに乗れないまま「置き去り」になっていると言われる。一部メディアでは15万人と報道している記事もあるが、それはイギリス発だけの数で、他国からの旅行者を含めると60万人と推定されている。

イギリス発の置き去り数は15万人なので、英政府はこの人々を救出するためにチャーター機を飛ばすことを考えるなど対応に四苦八苦している。また他国でも置き去りにされた人々を帰国させるために政府が苦慮している。

倒産に近付いているため、ロンドン証券取引所のトーマス・クック株もここ1～2年は下落する一方だった。最近比較的高かったのは2014年3月頃で、180ペンスを超えていた。なおペンスとはポンドの100分の1で、ロンドン証券取引所で使われる単位。言い換えると当時のトーマス・クック株は1.8ポンドを超えていた。

去年の4月にはまだ120ペンス台を維持していたが、その後は倒産の可能性が高まり下落する一方。先週の9月20日の終値はわずか3.5ペンス付近だった。

規模が大きい企業だけに、トーマス・クックの破産は置き去り問題だけではなく、いろいろな影響をイギリス経済、特に旅行関連業界に与えると思われる。