アントグループの上場中止は中国市場にとって大事件

著者鳥羽賢

2020年11月5日

本日・11月5日に、中国の株式市場ではアントグループという企業が上場するはずだった。この上場は超大型IPOとして中国で話題になっていたのだが、それが3日に突然上場中止を言い渡され、普通に上場する以上に大事件となった。

時価総額は30兆円以上だった

　本日・11月5日に、中国の上海と香港の株式市場でアントグループの株式が上場する予定になっていた。しかし、その上場はわずか2日前の11月3日に突然中止された。

　まずこのアントグループという企業について、簡単に見てみよう。アントグループは今は世界最大級の企業となった中国のアリババグループの一企業。主な事業はモバイル決済の「Alipay」で、日本でも利用されている。

　設立されたのは2014年だが大手ファンドなどから資金を受けて瞬く間に事業を拡大し、2020年7月には早くも上海と香港株式市場にIPOを申請した。上場は一旦承認され目論見書が公開されたが、その内容によると2019年の売上高は1206億1800万元（約1兆8900億円）、純利益は180億7000万元（約2830億円）だった。

　アントグループが中国の2市場に上場したのは理由があると言われる。アリババももともとは香港市場に上場し、その後は一旦上場を廃止。2014年にNY市場に上場した時は同市場で最大のIPOと騒がれたが、2019年にはそのまま香港に再上場した。

　アリババが2019年に香港に再上場したのも、アントグループが上海と香港に上場を申請したのも、2018年頃から米中対立が激化してきたためと見られている。米中対立の激化でNY市場における中国企業への締め付けが厳しくなっており、そのため中国の市場の方を選んだと見られる。

　さてアントグループは上場を申請した後承認され、公募価格は上海市場が68.8元、香港市場が80香港ドルになった。そしてこの価格に基づくアントグループの時価総額は3000億米ドル（約31兆2000億円）を超えるすさまじい額になる。日本最大の時価総額を持つトヨタ自動車が11月5日現在で約22兆円なので、すでにそれを抜いていた。

　上場によって調達する資金も日本円で3兆円以上と桁違い。このIPOは中国の投資家にとって非常に話題になり、多くの投資家がアントグループ株の公募に応募した。そして公募で手に入れられた投資家は非常に喜んだものだった。

　ところがこの上場は、11月3日に中国当局によって突然中止とされた。中止の理由は明らかにされていないが、アントグループの親会社とも言えるアリババの経営者・ジャック・マー氏が2日に行った発言で、中国当局にとって気に入らないものがあったためと噂されている。

　この上場中止によって、アントグループ株を購入するはずだった投資家や、上場に関わった証券会社などは非常に落胆している。だがこの件ではっきりしたことは、突然当局によって上場が中止にされてしまう中国という市場の闇の深さかもしれない。

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