買い付け期間が1年に及ぶ異例のTOB

株式市場では常時TOBが行われているが、昨年2月から始まった澤田ホールディングスという企業のTOBは、買い付け期間が何十回も延長されてついに1年間を超えた。このようなTOBは極めて異例だ。

モンゴルの子会社が理由

　企業の買収行為の一環として、TOB（株式公開買い付け）は常に行われている。TOBとは上場している企業を買収しようとする企業が、不特定多数が保有する買収先企業の株を広く買い付けること。

　TOBは株式の保有者にとっていいニュースであることが多い。というのもTOBを行う場合、買い付ける企業は発表時点の株価から約10％上乗せして買うことが多いからだ。つまりTOBが発表されると、10％の程度の利益が高確率で得られることを意味する。中には買い付けへの応募が規定数に満たずにTOB不成立となるケースもあるが、多くのTOBは成立して終わる。

　TOBは通常、買い付け価格と期間を発表して行い、買い付け期間は普通数週間とされる。ところが現在の日本で、買い付けが1年以上も続きまだ終わりが見えないTOBがある。それがウプシロン投資事業有限責任組合による、澤田ホールディングス（銘柄コード：8699）へのTOBだ。

　ウプシロン投資事業有限責任組合（以下、「ウプシロン」）とは、東京都にあるMETA Capitalというファンドが組成した投資用組合。澤田HDは、国内では債権回収事業などをやっているが、海外ではモンゴルの最大手銀行であるハーン銀行を子会社にしている。

　ウプシロンが最初に澤田HDに対するTOBを発表したのは昨年2月で、その時発表された買い付け期間は「2020年2月20日から3月19日」の1ヶ月間だった。

　ところがその後買い付け期間はどんどん延長され、ついに終わらないまま2021年に突入。2月10日にはまた延長が発表され、「2021年2月26日まで」とされた。これでついにこのTOBは終わらないまま1年間を超えることになった。当初発表された期間からこれまで発表された延長は、約25回にもなる。

　このようなTOBは極めて異例だ。ではなぜこれほどまでに延長が行われているのか？それは澤田HDの子会社のハーン銀行に原因がある。すでに述べたように、ハーン銀行はモンゴルの銀行だ。そして今回のTOBが成立すると、ハーン銀行の議決権を多数持つ会社が変わることになる。

　そのためにモンゴルの中央銀行から承認を受けなければいけない。そしてその承認がなかなか終わらず長引き、それが1年間終わらないためTOBも延長を繰り返して終わることができない状態が続いている。

　すでにTOB期間が1年間に及んでいるので、その間はハーン銀行の承認問題だけではなく、それ以外の細かい出来事もいろいろあった。だがハーン銀行の承認を最大の問題として、TOBを終わることができずにここまで来ている。

　日本の証券関連法では、「TOBは一定期間以内に終わらせないといけない」という規定はない。だからいくらでも延長が可能であり、澤田HDのように1年を超えて買い付けを続けることも可能になっている。

　それにしても1年間とはいくら何でも長引きすぎている。TOB期間の初期に応募した保有者は、すでに待ちくたびれているのではないだろうか。