証券大手が不正取引の損失を補填へ

3月頃から日本国内の証券会社に口座を持つ個人の口座情報が不正な方法で盗まれ、それによって無断で株などの売買を行う被害が広がっていた。被害の拡大を受けて大手証券10社と日証協が、共通の損失補填方針をまとめて近いうちに発表する見通しになってきた。

収束が見えない被害

　トランプ関税の影響で3月末から4月初頭にかけて株式市場が大暴落したが、日本の証券業界ではさらに悪いことが重なっている。3月頃から個人の証券口座情報がフィッシングによって盗まれ、それを使って他人が証券口座で売買や出金を行って被害が出るケースが続出している。

　フィッシングとはパソコンのEメールや携帯のSMSなどに、自分の口座番号、パスワード、あるいはクレジットカード番号などの入力を促す画面に誘導するメッセージがくるもの。そしてその指示通りに入力してしまうと、相手の方に自分の口座番号、パスワード、クレジットカード番号などの情報が盗まれる。

　そして犯罪者は盗まれた情報を使って個人の証券口座で株式などを売買し、さらに証券口座本人のものではない銀行口座に出金する被害も出ている。当初の被害は楽天証券で発生したが、その後は多くの大手証券会社に広がった。そして4月になっても収束は見えない。

　日本の証券関連法では、このような被害の損失を補填することは難しい面もあった。そのため野村證券など店頭証券はこれまで損失補填にはあまり動かず、SBI証券などネット証券の方が積極的に動いてきた。

　だが被害が拡大し続けているため、証券大手10社と日本証券業協会（日証協）が被害者救済に向けて動いている。ここで言う大手10社とは店頭証券の野村、大和、SMBC日興、みずほ、三菱UFJモルガンの5社と、ネット証券のSBI、楽天、マネックス、松井、三菱UFJeスマート（最近までauカブコム）の5社になる。

　これら10社と日証協が現在被害額の補填をどのような形で、どこまで行うか協議しているという。まだ具体的な補填内容は発表されていないが、損失の「一部」を補填と述べている報道もある。また顧客側がこのようなフィッシング詐欺防止の措置をどこまで実行していたかによって、過失の割合が変わり補填額も変わるという見通しもある。

　協議が終わって10社と日証協の共通の補填方針が決定されれば、会見を行ってその内容が発表される予定になっている。会見の日程はまだ発表されていないものの、被害が広がっていることを考えれば近いうちに行われるだろう。

　日本の証券業界でかつてない規模で広がった今回のフィッシングによる不正取引被害だが、損失補填だけではなく今後に向けた徹底した防止策が求められる。