英の拙速な減税は財務相更迭に発展

英トラス政権は先月の発足後に早速大規模減税政策を打ち出したが、この政策発表後にポンドや英国債が暴落するなど金融市場が混乱した。英政府や中銀が金融市場の混乱を収めるためにいろいろな手を打った末、ついに財務相の更迭にまで発展した。

同時に減税の一部を再度撤回

　9月上旬に発足したイギリスのトラス政権は、前ジョンソン政権より有能であるところを見せようと発足直後の9月23日に歴史的な大規模減税政策を発表した。

　しかしこの減税政策は減税によって失われた歳入をどうカバーするかなどが十分考えられておらず、発表直後から今後英の財政が悪化するのではないかとの懸念が金融市場で広がった。

　英財政懸念を受け、減税発表後にポンドと英国債が暴落した。国債市場では価格と利回りは逆に動く関係にあり、国債が売られて価格が下がると利回りは上がる。反対に買われて価格が上がると利回りは下がる。減税発表後に英国債が売られたことで、メディアでは「英国債の利回り上昇」と報じられた。

　金融市場の混乱を見て、英中銀は9月28日から10月14日まで約2週間の限定措置として、英国債の購入を決定。金融引き締めを行う中、このような「緩和への回帰」と受け取られる政策を実施するのは異例だが、混乱を収拾するために時限措置として行うことを決定した。

　その後しばらくは国債利回りを含む金融市場は落ち着いたが、10月3日になって英政府は減税策の一部、所得税の最高税率を45％から40％に引き下げる部分を撤回すると発表した。

　さらに今週13日になって、英政府は「減税案の修正を検討している」と述べた。10月3日の一部撤回だけでは足りず、市場と国民の懸念を払拭するためにはさらなる修正が必要と判断したようだ。

　そして14日になってついに、減税案発表後の混乱の責任を取る形で、クワーテング財務相が更迭された。表面上はクワーテング氏が辞任した形だが、周囲からの辞任要求を受け入れての辞任のため事実上の更迭と見られている。

　減税案には法人税率引き上げの棚上げが含まれていたが、14日にはこの部分も撤回することを発表した。また財務相の後任にはハント元外相が任命された。一方英中銀は9月28日からの国債購入策を、予定通り14日で終了させ延長はしないとすでに発表している。

　英政府が先月に発表した拙速な減税案は、ついに財務相の更迭にまで発展した。この一件は減税とはそう簡単には行かないものであることを示している。日本も「消費税減税を」という声があるが、実際にはそんな簡単にできるものではないのだろう。