東芝から分離したキオクシアが上場延期

10月6日に東証に上場する予定だったキオクシアホールディングスが、28日に上場延期を発表した。この企業は東芝の半導体部門が分離され売却された企業で、上場してこれから新たなスタートを切ろうとしていた矢先の延期となった。

米中対立に巻き込まれる

　キオクシアホールディングス（以下、「キオクシアHD」）という社名は、多くの人にとってはあまりなじみのない名前に聞こえるかもしれない。しかしこの企業は、東芝の半導体部門が分離され、売却されて誕生した企業だった。

　東芝は2015年にインフラ部門で不適切な会計処理が発覚。その後不適切会計はテレビ、パソコン、半導体など基幹分野でも行われていたことが明らかになった。この問題だけでも経営を大きく揺るがしたのだが、2016年末にはアメリカの原発事業で数千億円にも及ぶ減損損失を計上。東芝は一気に経営危機に陥った。

　2017年春に発表された決算では債務超過に転落したため、東芝はこの年の8月1日付けで約70年間いた東証1部から2部に降格となった。さらに債務超過状態が2年続くと上場廃止となるところに追い込まれた。

　そこで東芝は半導体事業を分離し、東芝メモリとして子会社化した。そして東芝メモリを米ファンドのベインキャピタルを中心とした企業「パンゲア」に売却し、その資金をもって翌2018年までに債務超過状態を解消。上場廃止を辛くも免れた。その後東芝メモリは、2019年10月にキオクシアと社名を変更。キオクシアHDとは、キオクシアの持株会社になる。

　分離・子会社化からわずか2～3年ほどしか経っていないものの、東芝から分離した会社だけに上場の条件は十分に満たしていた。そこで2020年になって東証に上場を申請し承認され、10月6日には上場する予定になっていた。上場すれば時価総額は1兆5000億円から2兆円にもなり、今年最大級のIPO（新規上場株）になるはずだった。

　ところが8月に米政府が中国の携帯大手・ファーウェイとその他数社に対する規制の大幅強化を発表し、上場計画が狂う。キオクシアはファーウェイに対してスマホの記憶装置に使う「NAND型フラッシュメモリー」を販売していたのだが、その製品が規制対象にあたる可能性が高い。

　そのため今月15日になってキオクシアはファーウェイに同製品の出荷を停止した。17日に東証に提出した有価証券報告書の訂正報告書には、「当社の製品が規制対象に該当する場合、当社グループの事業、経営成績および財政状態に重大な影響を及ぼす可能性がある」と記載していた。

　今後の事業展開や業績見通しが不透明になったキオクシアは28日には取締役会を開き、そこで上場の延期を正式に決定。東証に申し出たところ東証も延期を認め、10月6日の上場は一旦取りやめとなった。

　キオクシアは上場を経て新たなスタートを切るはずだったが、米中対立に巻き込まれそれができなくなった。2015年から16年にかけて経営危機が続いた東芝だが、そこから分離したキオクシアもかなり厳しい前途が待っているようだ。