最近また上昇が見られるパラジウム

ガソリン自動車の排ガス触媒として需要がある金属のパラジウムは、2016～21年頃に価格が高騰した後、2022～24年には暴落した。その後しばらく価格は低迷していたものの、最近になってようやく再度の上昇が見えてきている。

10年代の上昇のきっかけはある事件

　パラジウムは日常生活ではあまり意識されることのない金属だが、先物市場では金、銀、白金（プラチナ）などと並んで主要な金属銘柄として取引されている。

　外見的には銀やプラチナと同様に白銀色をしており、主な生産国はロシアと南アフリカ。どちらの国も世界の生産量の約40％を産出しており、合わせて約80％になる。そしてパラジウムの需要として大きいのが、ガソリン自動車の排ガス触媒としての用途。それ以外には服飾品などにも使われる。

　ここ10年程のパラジウムの先物価格を見ると、2016年から数年間は急上昇し、2022年頃から急降下するというバブル的な動きだった。NYのパラジウム先物はそれ以前、2011～15年頃は1オンス500～800ドルのレンジで安定していた。

　しかし2015年に、ドイツのフォルクスワーゲン（VW）がディーゼル車の排ガス試験で不正行為を行っていたことが発覚。これがその後のパラジウム価格に大きく影響することになる。

　ディーゼル車大手のVWが排ガス試験で不正を行っていたことでディーゼル車への信頼が低下し、その後はディーゼル車よりガソリン車の需要が高まることになる。またこの事件のためにディーゼル車の排ガス試験が以前より厳格化され、ディーゼル車の供給が以前より減ったこともガソリン車の需要を高めた。

　世界的にガソリン車の需要が高まったことで、排ガス触媒としてのパラジウムの需要も高騰。2016年以降はそれ以前の500～800ドルのレンジをブレークして上昇し、2021年には3,000ドルをつけた。

　だがこの頃からパラジウムの風向きがまた変わることになる。2021年頃から世界的なEV（電気自動車）へのシフトが進み、多くの国が2030～40年頃までにガソリン車の販売を終了する目標を立てた。

　これによってガソリン車の触媒としてのパラジウムの需要もその後低下が予想され、パラジウム価格は急落して2021年末には1,600ドルとこの年5月の高値から半分近くになった。

　しかし翌2022年3月には、ウクライナ紛争開始に伴う先物価格高騰によって前年の高値を超える3,400ドルまで上昇した。

　だがそこを天井に、2022年後半から23年にかけてパラジウム価格は暴落して2023年末には1,000ドルと2022年3月の高値の3分の1以下になった。そして2024年から25年前半にかけて、価格は1,000ドル付近に留まっていた。

　ところが7月になるとそれまでの1,000ドルのレンジをブレークして上昇し、一時は1,370ドルをつけた。そして8月11日現在は1,150ドル付近で推移している。

　最近パラジウム価格を押し上げる明確な材料が出たわけではないが、世界各国のEVシフトが期待されていたほどスムーズに進んでいないことなどが買い材料になっていると思われる。パラジウムは今後2016～21年のような急上昇が見られるだろうか？