成功にはほど遠いビットコイン法定通貨化

中米の国・エルサルバドルは昨年9月に世界で初めてビットコインを法定通貨として採用した。それから1年あまりが過ぎたが国民の間でビットコインは普及せず、ビットコイン価格も下がり政府は保有分で含み損を抱えている。

毎日買うとの発言も

　中米にエルサルバドルという小さい国があるが、ここは昨年9月に世界で初めてビットコインを法定通貨として採用して世界の仮想通貨業界を驚かせた。

　エルサルバドルは2001年まで独自通貨の「コロン」を使っていたが、コロンは廃止されてそれ以降は米ドルだけが法定通貨だった。すでに独自通貨を持っていなかったため、米ドルに加えてビットコインを法定通貨とすることにもあまり抵抗がなかったと思われる。

　ビットコインの法定通貨化は昨年9月7日に実行され、政府は国民に対し独自ウォレットアプリの「Chivo」も配布。そして全国にビットコインと米ドルを両替できるATMも設置された。

　ビットコインの法定通貨化を決断したブケレ大統領は、その後「ビットコイン・シティ」構想を発表。これは仮想通貨の売却益にかかる所得税をなくした都市の構想で、シンガポールや香港のように低い税率によって世界から投資家を呼び込んで金融都市にする狙いがあった。

　しかしその後1年ほどが経ったが、ビットコイン・シティの建設はほとんど進んでいない。そして2022年になって仮想通貨市場が下落し、ビットコインの価格も暴落した。エルサルバドル政府はビットコイン法定通貨化を決めてからビットコインの購入を続けてきたので、価格下落ですでに日本円にして約100億円の含み損を抱えていると見られている。

　そして11月になってFTXが破綻したために仮想通貨市場とビットコインはさらに下落したが、18日にはブケレ大統領が「これから毎日ビットコインを1枚ずつ購入する」と発言した。

　現在ビットコインは220万円くらいなので、価格が変わらないとすると毎日買えば1年で約8億円買うことになる。一国の政府としてはそこまで大きい金額ではないので、このような買いを続けたことですぐにエルサルバドルの財政が破綻する可能性は低い。ただし毎日の購入を10年、20年と続けたらそれなりの金額になる。

　また今週になって中国がエルサルバドル国債の購入を申し出ているという情報も流れた。エルサルバドルは財政面で不安があるので中国が国債を購入して安定の手助けをするという申し出と見られる。

　ビットコイン法定通貨化からのこれまでの経緯を見る限り、国民の間でビットコインを使おうという動きは広まらず、ビットコインの価格自体も下落。そして財政的にも中国に国債を買ってもらう必要が出てくるほど安定しておらず、ビットコインの法定通貨化は同国の発展にほとんど貢献していない。ビットコインの法定通貨化は成功と言うにはほど遠いようだ。