ファイザーのコロナ治療薬売上が「マイナス」4,000億円以上

米製薬大手のファイザーが30日のNY株式市場終了後に10～12月期の決算を発表。コロナウイルスのパンデミックが落ち着いたことで売上高は前年同期から40％以上激減していた。そして売上激減の背景に、コロナ治療薬が日本円にして「マイナス」4,000億円以上を計上という珍しい結果になったことがある。

マイナス売上の理由は……？

　米製薬大手のファイザー（銘柄コード：PFE）が、30日のNY株式市場終了後（日本時間31日早朝）に10～12月期の決算を発表した。

　その内容によると、売上高は前年同期の243億ドル（現在のレートで約3兆4000億円、以下同じ）から41％減の142億5000万ドル（約2兆1000億円）で、市場予想とほぼ同じだった。

　純損益は前年同期の50億ドル（約7,400億円）の黒字から33億7000万ドル（約5,000億円）の赤字に転落。EPS（1株当たりの利益）は0.6ドルの赤字だった。

　ファイザーの場合、純利益とEPSはこれらの数字の他に調整済の数字も発表している。米企業の中には正式な会計基準であるGAAPベースの利益額の他に、非公式のnon-GAAPベースの数字を発表する企業が多い。それはnon-GAAPベースの方が数字がよくなるためだが、ファイザーの場合調整済の利益額がnon-GAAPベースと同等の意味を持つ。

　今期発表された調整済純利益は、前年同期比91％減の5億9000万ドル（約870億円）と10分の1未満への激減だが黒字を維持できた。そして調整済EPSは0.1ドルの黒字で、同じく黒字を維持し市場予想の0.22ドルの赤字よりも良好だった。

　今期の米企業決算は全体的に好調な数字を出している企業が多いが、ファイザーは例外的に売上が激減した。その理由は多くの人がわかっているように、2023年になるとコロナウイルスのパンデミックがかなり落ち着いてきたことで、コロナ関連製品の売上が激減したためだ。

　ファイザー製のワクチンは日本でも人気で、正式名を「Corminaty（コーミナティ）」といった。Corminatyの売上高は前年同期は113億ドル（約1兆6700億円）から53％も激減して53億6000万ドル（約7,900億円）だったので、これだけで約60億ドルもの売上を失ったことになる。

　そしてもう1つのコロナ関連製品であるコロナ治療薬「Paxlovid（パキロビッド）」の方はもっと惨憺たる状況だった。前年同期のPaxlovidの売上高は18億ドル（約2,700億円）だったのだが、今期は売上高が「マイナスの」31億3000万ドル（約4,640億円）だった。

　企業決算で純損益をはじめとする各損益額がマイナスになることは普通にあるが、売上高がマイナスになることは珍しい。売上高は基本的にはプラスにしかならない。

　この部分についてファイザーの説明では、「マイナスの売上35億ドル分を計上した」と説明されていた。ここで言うマイナスとは、前期以前に受注して売上として計上されていたのだが、その後キャンセルしたりあるいは返品されたりして前期以前の売上を取り消す必要があった数字のこと。

　決算上の売上がマイナス31億3000万ドルで前期以前の取り消しのためマイナスの売上35億ドル分が計上されていたのなら、今期はそのマイナス分以外で3億7000万ドル分売れていたことになる。

　それにしても実に珍しい決算だが、2022年までのコロナウイルス大流行と、23年に入ってからの急速な落ち着きによってこのような現象が起こった。なお30日を27.02ドルで終えていた同社の株だが、調整済利益が予想に反して黒字だったことで大幅減収決算にも関わらず、31日のNY市場序盤は前日終値とほぼ同じ水準で推移している。

　モデルナもそうだが2021～22年のコロナによる特需は終わり、これからが真の企業としての能力を試される。