ステーブルコインの価格かい離でバイナンスが補償

先週の10日夜にトランプ大統領が対中追加関税を発表したことで、株式市場だけではなく仮想通貨市場でもリスク回避の売りが大量に発生。そして海外取引所のバイナンスでは、一部のステーブルコインの価格が法定通貨から大きく乖離し、その影響で損失を出した投資家に補償するという事態に発展した。

過去最大の強制決済の日

　先週金曜の午後12時頃に、トランプ大統領が突然中国に対して11月1日から100％の追加関税をかけると発表した。これは前日・9日に中国がレアアースの輸出規制を発表したことに対する対抗措置と見られる。

　この発表によって金融市場に米中貿易戦争の再燃懸念が高まり、この日のNYダウは878ドル安で終了。日経225先物も10日の場中終値時点から約2,000円も暴落して先週を終えた。

　さらにこの流れは仮想通貨市場にも広がり、ビットコイン（BTC）をはじめほとんどの仮想通貨が大きく下落。下げによって証拠金を使った取引の強制決済が広がり、10日夜から11日までの24時間で、仮想通貨市場全体で過去最大となる約200億ドル（約2兆9600億円）もの強制決済が発生したと見られている。

　そして世界最大級の仮想通貨取引所バイナンス（Binance）で、一部のステーブルコインの価格が連動している法定通貨からかい離するという事態が起こった。なおここで言うバイナンスは海外の取引所で、現在日本法人として運営しているバイナンスジャパンとは別になる。海外バイナンスは現在日本居住者からの口座開設を受け付けていない。

　ステーブルコインはレートが法定通貨に連動する仮想通貨で、日本では少ないが海外では時価総額最大のテザー（USDT）をはじめ多数のステーブルコインが流通している。そして今回バイナンスで価格がかい離したものの1つは、Ethena（エセナ）が発行しているUSDe（SUSDE）というコイン。

　これは利回り付きステーブルコインの代表的なもの。通常の仮想通貨やステーブルコインは、持っているだけではインカムゲインは得られずステーキングやレンディングなどをしてインカムゲインを得る。しかしUSDeのような利回り付きは、保有しているだけで一定の利回りが得られる。

　そして本来は米ドルに連動しているこのコインは1ドル＝1USDeでレートが固定されていた。しかし10日夜から11日にかけ、なんと0.65ドル付近まで米ドルからかい離してしまった。

　ステーブルコインは連動している法定通貨から価格がかい離することを前提としていないため、かい離したことで大量の強制決済が発生した。またバイナンスで取引されるUSDe以外の複数のステーブルコインでも同様の事態が発生したため、バイナンスは事態を重く受け止めた。そして今回かい離したステーブルコインの動きで損失を被った投資家に補償することを発表し、13日月曜までに2億8000万ドル（約410億円）程度を補償した。

　今回のかい離はバイナンスのみで起こったもので他の取引所では同様の大規模なかい離は起こらなかった模様で、Ethenaの創業者であるヤング氏は、「バイナンスのシステムの問題だった」との趣旨でコメントを発表した。

　2022年にはステーブルコインのテラ（UST）が原因でテラ・ショックが起こったこともあり、ステーブルコインの連動性は完ぺきではないことが改めてわかった。