アメリカが利下げに転じたら本当の円高が始まる

今月になって株式市場の暴落が続いており、同時にリスク回避の流れから円高・米ドル安の動きも続いている。しかし米ドル/円はまだ111円台にあり、最近のピークである114円台からそれほど下がっているわけではない。本当に円高の動きが始まるのは、米FRBが利上げから利下げに転じた時になる。

前回の利下げ開始は2007年

今月になって世界各国の株式市場が下落し、同時に為替市場では円高の動きが続いている。だが円高の動きはまだそれほど強くなく、米ドル/円 [i] は最近のピークである114円台から111円台に下がったのみだ。

米ドルがまだそれほど下がっていないのは、FRBの利上げ観測がまだ崩れていないためでもある。今月の株安が始まる前は、米株式市場と米経済は非常に好調な状態になった。そして9月にFRBは利上げを行ない、今年12月に次の利上げを行うのは確実と見られていた。

今月になって株価が下がったとは言え、今後の金融政策に大きく影響を与えるほどではない。だから為替も大きく円高にはなっていないのだが、これからの株価の下落が続くと話は違ってくる。

FRBが今後利下げを行うとしたら、考えられるシナリオは2つほどある。1つ目は、株価の下落が激しく長期間続いた場合、「緊急利下げ」として通常のFOMCの開催なしに利下げを行うこと。2つ目は通常のFOMCの開催で利下げを決めるシナリオだが、これは米景気の見通しが現在よりかなり悪化した場合に考えられる。

ではFRBの前回の利上げサイクルから利下げサイクルへの転換はどのように進んだのか？前回FRBが利上げを行ったのは2004～06年で、2006年6月に政策金利を5.25％に上げたところで終了した。

その後1年ほどは、それ以上の利上げは行わないが利下げも行わない金利据え置きが続いていた。ところが2007年7月末に、サブプライムローンが破綻しそうだという見通しが広がり、金融不安が急拡大。株式市場の暴落が始まり、暴落は3週間ほど続いた。

止まらない暴落を見て、FRBはついに8月17日に緊急利下げを発表した。この時下げたのは現在政策金利として知られるFF金利ではなく、公定歩合の方を0.5％下げた。これで株式市場の暴落は一旦止まったが、金融市場と米経済への不安は消えず、翌9月にはFF金利を0.5％下げて4.75％とした。これが前回の利下げサイクルの始まりとなった。

為替レートは2国間の金利差で決まる面が大きい。ゼロ金利と異次元緩和を続ける日本と、利上げを続けるアメリカの金融政策の差は大きい。現在の111円という水準はこの差を織り込んだものだ。

しかし今後アメリカが利下げに転じるようなことがあれば、日米の金利差は縮まっていく。そうなると為替レートは現在より大きく円高・米ドル安に動くのは必至で、1ドル＝100円を切ってさらに下がってもおかしくないだろう。