中国でデジタル人民元が運用開始

デジタル法定通貨を開発している中国が、今週から国内の一部の地域でデジタル人民元の試験運用を開始した。この試験で特に不具合が出なければ、デジタル人民元のプロジェクトは一歩前進することになる。

リブラと覇権争いか

以前から中国が開発を進めていると報道されていたデジタル人民元だが、今週になって中国の一部の地域で試験運用が開始された。試験運用されているのは、広東省深セン市、江蘇省蘇州市、四川省成都市、そして首都・北京の郊外の4ヶ所。

デジタル人民元とは、単純に人民元を仮想通貨のようにデジタル化したもの。デジタル法定通貨はいくつかの国が開発を検討しているが、中国は開発を進めており現在のところ世界で最も進んでいると言われる。利用者は普通の通貨のように紙幣や硬貨を持ち歩かず、デジタル通貨のウォレットが入ったスマホを持ち歩いて物を買うことができる。

中国がデジタル人民元の開発を急いでいるのは、デジタル通貨の分野での覇権を狙っているからだとの見方が多い。昨年にはFacebookが仮想通貨「リブラ」を発表して世界を震撼させた。

すでに巨大すぎる存在になったFacebookが仮想通貨を発行するとその影響は大きくこれまでの金融秩序を揺るがすほどになるため、リブラに対し各国政府は次々と懸念や反対を表明。最近では米ドルやユーロなど特定の通貨に連動した仮想通貨を複数発行する方針に転換した。

中国という大国が発行するデジタル人民元なら、リブラと同様これまでの金融秩序を変えてしまうほどのものになりうる。またデジタル人民元が普及すれば人民元の通貨としての地位がさらに高まり米ドル一極集中の世界を変えることができるため、中国はそれを目論んでいると見られる。

今のところ日本、アメリカ、EUなどはデジタル法定通貨を検討しているものの、具体的な開発は進んでいない。そのため世界最初のデジタル法定通貨が生まれるなら、それはデジタル人民元になることはほぼ確実と見られている。

そうなるとこれからはデジタル人民元とリブラで仮想通貨の世界での覇権争いになる。これまでの仮想通貨の世界では、ビットコインが最大勢力で常にビットコインが覇権を握る存在だった。

しかしこれからは仮想通貨の主役がリブラやデジタル人民元に移っていく。この両通貨はどちらも法定通貨に連動したレートになるため、ビットコインなどのように激しい値動きをすることはない。したがって投機目的で買われることもあまりない。

最近は変動レートの新しい仮想通貨が台頭してくることはほぼなく、ビットコインなど既存通貨の寡占状態になっている。そこで今後ステーブルコインのリブラやデジタル人民元が普及してきたら、仮想通貨の世界は新たな時代を迎えることになるだろう。